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FLAG外伝 第1章 /野崎 透
3.特殊部隊(4)
車輌群が眼前に迫って来たその瞬間を狙って、クリスと一柳はハーヴィックを二足歩行モードに変換させ、攻撃を開始した。
最初に火蓋を切ったのは一柳機だった。ターゲットは6両目の直ぐ後方を走っていたバンタイプの車輌。一柳機が放った40ミリ砲弾は正確にボンネットに命中し、一瞬にして四角い車体を炎上させた。
その直後に6輌目の後輪がバーストする。クリス機が放った機銃弾がタイヤを射抜いたのだ。後輪を狙ったのは、可能な限り中の人間に衝撃を与えずに脚を停めるためだった。狙い通り、6輌目はたちまち国道を外れ、咳き込む様に停車する。
さらにクリスは前方を走っていた小型トラックのエンジンに狙いを定め、機銃弾を発射した。弾底に燃焼剤を仕込んだ焼夷弾は僅か二連射でトラックを炎上させた。
一瞬にして、目標の6輛目は孤立した。武装勢力の車輌群は炎上する前後の車輌に阻まれて近付く事が出来ない。これでNGOスタッフが直ぐに殺害される事態だけは防げるはずだ。
クリスは、国道の脇に擱座(かくざ)した小型トラックの中に残されているNGOスタッフを護る為に、ハーヴィックをダッシュさせた。
一方の一柳はさらに攻撃を続けた。
この場合最も警戒しなければならなかったのは、武装勢力の兵士が降車して散開する事だった。そうなると全てを制圧するのに余計な時間が掛かってしまう。下手をすると、撃ち漏らした兵士にNGOスタッフを襲われてしまう事もあり得る。
そうした事態を避ける為には、迅速に全ての車輌を撃破するしかない。一柳機が40ミリ擲弾(じゃくだん)発射機という大口径の火器を携行していたのは、相手に逃げる余裕を与えず、一撃で完全に破壊するためだった。
一柳の攻撃は分断された車列の中心から外へと波紋の様に拡がっていった。8輛目の次に4輛目、さらに9輛目……40ミリ擲弾は機械的に武装勢力の車輌を炎上させる。そのあまりに正確で迅速な攻撃は、武装勢力の兵士達を完全なパニック状態に陥れ、完全に反撃の意志を奪った。
全車のほぼ半数が破壊された時、残った車輌は仲間を棄てて逃走を始めた。しかし、一柳は敢えてそれらを追撃しようとはせず、炎上する車輌の探索に目標を変更した。
今必要なのは武装勢力を倒す事ではない。兎に角NGOスタッフの安全を確保する事なのだ。そのためには、逃げ出した敵を追う事よりも、生き残りの兵が居ないかどうか確認する方が大切だった。
一柳はサイトを次々と炎上する残骸達の方へ向けた。しかし、クリスがNGOスタッフを救出しているはずのトラックだけは飛ばした。今の任務には特に必要無いからである。
10分後、待機していた救出部隊の輸送ヘリがクリスの連絡を受けて駆け付けて来た。その断続的なローター音を耳にした時、一柳は初めてサイトをクリス機の方に向けた。
*
作戦のほぼ完璧な成功は、国連軍の主脳を瞠目(どうもく)させた。ここに、国連軍は初めて本気でこの新兵器の可能性に注目し始める。それはクリスが考えていた以上の影響をシーダックの上にもたらす。
しかし、その事が明らかになるには、まだしばらく待たねばならなかった。
2ヶ月後、中国国家主席が病気療養のために、予定されていた北朝鮮訪問を中止したという報道が世界を駆け巡る。
主席が直ぐに政務へ復帰したため程無く忘れ去られる事となったこの報道に対し、しかし、国連軍は全く別の情報を掴んでいた。突然の訪問中止の原因が、実は、公式に発表された病気によるものではなく、主席を狙った暗殺未遂のためだったというのだ。しかも、結果的に暗殺は失敗に終ったにも拘わらず、主席は恐怖のために、一時的な錯乱状態にまで陥ったというのである。
政治的な暗殺事件で、一国の元首がそこまでの恐怖に陥るのは普通では考えられない異常事態だった。だが、それには理由があった。主席の命を狙ったは歴史の中から蘇った亡霊、ウディヤーナのゲルト派が放った狂信者だったのだ。
自国の歴史に通曉(つうぎょう)している主席が暗殺に秘められたメッセージを感じたのは言うまでも無い。そしてその疑念は、逮捕された狂信者の体内から大量の麻薬が検出されるに及び確信へと変った。主席が錯乱したのはこの時だった。
一連の異様な事件は、国連軍にとっては思い掛けない機会でもあった。これを機に、ウディーヤーナに対する中国の態度に変化が表れるかもしれなかったからである。
かねてから、自らの存在感を示す場としてウディヤーナに注目していた国連軍は、幾度も安全保障理事会に国連軍の派遣案を提出していた。しかし、結果的に案はその都度中国の拒否権発動によって拒まれ、決議に到る事は無かった。だが、その流れもこの事件で変るかも知れない。
国連軍の期待が現実となったのは、事件からおよそ1ヶ月後だった。
緊急安保理で中国がウディヤーナへの国連軍派遣案を提出したのである。表向きは、ゲルト派との交渉には中立的な立場の介在が必要というものだった。
しかし、本当は、それが恐怖によるものである事を国連軍の上層部は知っていた。
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