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FLAG予備知識集 / 桝谷直俊
■「戦闘用ロボットの腕」
前回紹介したエクソスケルトンや、ホンダのASIMOなどを見ていると、巨大人型ロボット兵器というのは将来実現するように思えるかもしれません。ですが実際にはどうでしょうか?
まず兵器というものは、可能な限り小さいことが求められます。大きいと敵に発見されやすくなりますし、敵の攻撃も命中しやすくなってしまいます。大きい兵器というのは「大きくならざるを得なかった理由」「大きくなるデメリットに似合うメリット」というものが必ずあります。では、兵器が大きくなる理由となると、
強力な兵器を載せるため、あるいは多数の兵器を載せるため
障害物を乗り越えるため
輸送量を増やすため
というようなものがあります。
ではまず1つめの「強力な兵器を載せるため、あるいは多数の兵器を載せるため」の話をします。
戦艦大和は大きかったですが、それはあの大きさでないと、巨大な口径46センチ艦砲を搭載することができなかったからです(大和にその大きさに似合う兵器的な価値があったかという話はここでは置いておきます)。
現在、最も大きな兵器であるアメリカ海軍ニミッツ級空母は、艦載機を発着艦させ、艦内に収容するために大きくなっています。これよりもっと大きくすればさらに多数の機体を収容できますが、あれ以上大きくすると運用に支障が出るため、現在のサイズに留まっています(アメリカ軍の艦艇は、パナマ運河を航行できるサイズに制約されています(追記 ニミッツ級空母自身は艦載機の大型化に伴い、パナマ運河を運行できるサイズを超えて巨大化しました。訂正してお詫びします))。
戦車で言うと、車体を大きくすればするほど強力な戦車砲が搭載できます(戦車は、戦車砲を撃ったときの反動に耐えられることがまず要求されます)。それに大きくした方が装甲も強化できます。ですが大きくし過ぎると、エンジン出力が堪えられず速度が遅くなる、重すぎて橋を渡れなくなる、狭い場所を通れなくなるという弊害が出てしまいます。
人型ロボット兵器について考えると、まず兵装の問題が出てきます。「ロボットの手に物を持たせるのは難しい」というのは言うまでもないことなので省きますが、武器を持つとなると、どうしても反動について考えなければなりません。武器の口径が大きくなり、弾薬の炸薬量が大きくなると、反動も大きくなります。人間であっても、不用意に口径の大きな武器を扱うと、脱臼したり骨折したりする危険があります。「ロボットの手は機械だから頑丈なのでは」とも思えてしまいそうですが、物を拾ったり掴んだりできる複合関節の腕を実現し、さらに射撃時の反動に堪えられるものにするのは並大抵なことではできないでしょう。ちょっとでもパーツが歪んでしまったら、動かなくなってしまうからです。将来、粒子砲(ビーム兵器)やレーザー兵器、レールガンなどの反動のない武器が実用化されれば話は変わってきますが……。
そこまで行くと、「そもそも、ロボットの手に武器を持たせる必要があるのか」という話になってくるでしょう。つまり、胴体に直接据え付けてしまった方がいいのではないか、と。複数の兵装が必要なのであれば、それも全部胴体につけてしまえばいい、と。手に持たせることを前提にすると、ロボット兵器自体の大きさのわりに、あまり強力な兵装がつけられないことにもなりますし。
確かに手があれば、拾った武器であっても使えますし、物を持ち上げたりという汎用的なことにも使えます。ですが、戦闘に堪えられる腕を作るのにかかるコストに似合う価値があるでしょうか? 兵器の開発には、常に「そのコストに似合う価値があるのか」と問われます。性能優秀であっても、コストが高くつきすぎたために実用化されなかった試作兵器は多数存在します。
大体、実際の戦場では、都合よく自分のロボットが使える武器がそこに落ちているなんてことはあまり期待できませんし、物を持ち上げたりという汎用的なことをしたいのであれば、戦闘を前提としないそれ専用の工作用機械を作った方が安上がりです。軍事の歴史において、オールマイティな兵器を作ろうという試みは「コストばかり高くなる」「性能は中途半端」となって常に失敗してきました。未来の開発者たちも、それと同じ轍は踏まないでしょう。そのため計画段階で、多大なコストのわりにメリットが少ないこの計画は潰されることでしょう。
そんなわけで、実際には「ロボットの腕」を持った兵器は残念ながら実現困難のようです。ですがアニメ的な視点からいうと、戦闘用ロボットにも手があった方が何かと重宝されます。これはデザインという点だけではなく、先に書いたように物を持ち上げて人を助けたりなどと、ドラマ的にさまざまな使い方ができるからです。そのためアニメ作品では「腕のついたロボット兵器」が多用されています。
では「足」はどうでしょうか? 次はそのことについて触れたいと思います。
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