Q | 『FLAG』に携わることになったきっかけを教えてください。
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野崎 | 当時『FLAG』という名前はまだなかったんですが、高橋さんとは何作か前の作品から、アニメーションを作っていく上でのひとつの方法論として、写真とかカメラマンを利用できないかということで、小説なんかも書いたことがあるんです。僕自身、写真が好きだったし、カメラマンにも人間として興味を持っていたので、「やっとやるのか」と感じましたね。それで声がかかったのは嬉しかったですね。ちょうど高橋さんとやっていた別の作品が終わったばかりで、また仕事ができて嬉しいなあと。なら、できるだけやってみましょうということで、比較的軽い気持ちで入っていきました。
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Q | 主人公の白州冴子について、お伺いできますか。
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野崎 | 正直、高橋さんの作品って男臭いんですよ(笑)。どうしても男ばっかりなんですね。アフレコに行っても男、おじさんがずらっと並ぶんですね。それで今回、主人公をどうするかというとき、主人公を女性にしたいと。女性カメラマンというのは、カメラマンの現場では実際には少ないんですけど。半分体力勝負というのもあるし、特に戦場みたいなところに入ってくるカメラマンの女性って、いないことはないんだけど、基本的に僕らはあまり聞かないですよね。だから逆に女性でもいいかなって。でも一番は「女性を出したい」というやましさ、男の性みたいなものです(笑)。白州という名前も、僕がつけたものなんだけど、高橋さんが白洲次郎という人が好きなんです。もともと吉田首相の運転手だった人で、日本で初めてジーンズをはいた人としても有名なんですよ。その人が好きだったということで、そこから名前をもらってきてもいいかなと。冴子というのはただ語感でつけたんですけど、それが今まで生き残っていて……。そして白州を中心に、まわりにどういう人物たちを構築していくかを考えていきました。
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Q | 野崎さんから見た高橋監督は、どういう人物でしょうか?
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野崎 | 本人はどう思っているかわかりませんが(笑)、僕は凄いと思うんですよ。アニメーションを作るところで一番の問題というのは、才能をどう認めていくかとか、どう発掘していくかだと思うんです。そういうときに、高橋さんはよく「自分はできないから人に任せるよ」と言うんだけども、一番難しいのは人に任せることじゃないですか。だから今回、そういう意味で、舞台設定とか物語とか人物というものを相当自由に任せてくれたんです。例えば、こちらでやったことを提出しますよね。「こういうものはどうですか?」といったときに、必ず全否定はしないんですけど、いくつか的確なバックがあるんですね。それが相当、こちらが痛いなと思っているところを凄く的確に突いてくるんです。作品をどう作るかという全体を通した中でのバランス感覚とか、その中で何を大事にしなければならないかということに関して、凄く的確で鋭い人ですね。だから、ご自分ではプロデューサー型監督だと言っていますけど、それが一番難しいんです。
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Q | 今回、地域紛争を描いた話になっていますが、現実のソマリア、コソボ、イラクなどで戦争の概念が変わったと言われますが、そのことは野崎さんのシナリオに影響を与えましたか?
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野崎 | ものすごく影響を受けていますね。それはやっぱり現代を見なければ映えないし、今回、ジャーナリストが主人公なので、ジャーナリストと戦争の関わりは何かと歴史をたどっていくわけじゃないですか。それこそキャパとかマグナムの連中から始まっていって、ベトナムの中にカメラが入ってどうなったか、沢田教一がどうのとかということも、先発の流れとして調べましたし。例えば、話中で出てくるんですけど、空爆の誤爆でやられてしまうというシーンがあるんです。あれは、アルジャジーラの一件をモデルにしているんですよ。そういった意味では、白州の立場というのを実際に多くの手記を読んで当てはめてみたりね。話中で出てくるインタビュー内容も、現地のドキュメンタリー番組に出てきたことをモチーフにしたり、特殊部隊の隊員達が言うセリフなども、TVで聞いたセリフを参考にしたところもあるんです。このように今回の作品の趣旨も含めてなのですが、色々参考にさせてもらいましたね。それから、戦場をどこにするかを考えたときも、チベットを明確にモデルにしています。チベットが中国に占拠されてしまった事件というのを、今回モデルにしているし、宗教的な背景もチベット仏教をモデルにしたり、もうひとつ、イスラム教の流れなども、微妙に融合させながら構築していきました。そういうところがないと、やっぱり僕らだけの想像力では、現実的なものというのは支えきれないので……。ただ力及ばずの部分もあって、もっとちゃんと考えておけばよかったというところも多いです(苦笑)。
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Q | 視聴者のみなさんには、どういったところを見ていただきたいですか?
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野崎 | それは難しいですね〜。脚本の執筆に入るところで目標がなきゃダメだとかはあるんですけど、ある時期から、それがスポンと飛んでしまって、書いている対象と自分だけの一対一の対決になってくるんですよ。自分がどれだけ登場人物を理解できるかできないか。それで仕上がったものを見て、それが実際どういう形になるかということでいけば、色々あるんだけども。ですから、そうですね……自分が考えただけものが形になるわけではないので、これは僕らの中での一番のジレンマの部分なんだけど、そういった意味を含めて何を見ていただきたいかというと、「作品を見てください」と。全体を見ていただいて、どう感じるか。まあ相当な非難や、「何やってんだよ」みたいなのも来るだろうし、でも何人かにひとりくらいは「結構面白いことやってるんじゃない」と思ってくれるかもしれないんだけど。そこは作品として公開してから、おっかなびっくりしながら反応を待つ。ですから、現段階ではおこがましいことは言えないですね。
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