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FLAG外伝 第1章 /野崎 透
1.プロローグ(1)

——最初、“解放軍”の兵士達は秩序を保っている様に見えた。
——しかし、道路の脇に停められていた車が大音響と共に隊列の一部を吹き飛ばした時、破片と共に整然とした空気も粉々に砕け散った。
——兵士達はヒステリックな悲鳴を上げながらバラバラに散開し、周囲の民家に向かって容赦の無い銃撃を始めた。
——激しい銃撃の音に混じって恐怖の叫びや泣き声が聞こえて来た。だが、私達は見ているしかなかった。兵士達はまるで私達NGOの監視団の存在等一切目に入っていないかの様に、強ばった顔でひたすら銃を撃ち続けていた……。

 風が甲高い泣き声と共に吹き抜ける度に、湖の畔を覆う砂礫は軽い音を立てて転がっていった。大きく両腕を拡げた雲が帆を張った小舟の様に斜面を駆け登って行く。雲は藍色の陽射しに輝いていた畔をたちまち灰色の湿った紗幕で覆い、ようやく目を吹き出したばかりの草花にばらばらと氷の粒を吹き掛けた。無数の冷たい礫を、草花達はしなやかな身体を小刻みに震わせながら必死に耐える。しかし、草花達は知っていた。この紗幕は直ぐに吹き払われ、再び硬く凍り付いた静寂が訪れると——。
 宇宙に向かって突き立てられた頂きに抱かれた世界。
 標高五千メートルを超える高原に湖が透明な湖面を浮かべている。その湖は世界で最も高所に存在する大水系として知られている。しかし、何百年も前からこの湖畔に暮す遊牧の民にはそんな地理学上の統計など全く何の意味も無い事だった。
 大切なのは、湖があくまで日々の糧を支える水桶である事、そして湖面に映る山々の姿を通して神々と対話をする“天の鏡”であるという事だった。
 山上の人々は、同じ鏡を麓の農耕民が“天池——天空の湖”と呼んでいる事さえ知らなかった。峻険(しゅんけん)な山々によって隔絶された高原地帯にはずっと地上とは異なる暮しと時間が流れて来た。それがこの山上の世界——神々の天空に最も近い世界だった。

 人の世界よりも神々の棲む世界に近いと言われるこの高原地帯に今も厳格な宗教的戒律を守って生きる国、ウディヤーナ。グローバリズムという坩堝の中であらゆる国と地域が溶融しようとしている現代にあって、20世紀の末まで鎖国を続けてきたこの国は、最後の秘境、或いは今に残る最後の中世的宗教国家として知られていた。
 しかし、今、膨張を続ける人間の欲望はこの高原の秘境をも呑み込もうとしていた。隣の大国が突然この宗教国家の領有を宣言、国境を超えて軍を進めて来たのである。
 世界のマスコミは隣国の行為を時代錯誤の侵略として一斉に批難した。それに対し、隣国は、進駐は排他的な宗教政策によって弾圧を受けている自国民の保護が目的であるとして批難を全く受け入れようともしなかった。それどころか、この高原地帯は歴史的にも自国の一部だったとして領有の正当性を主張し始めたのである。
 だが、それらの発言を信じる者は殆どいなかった。隣国の意図が、未だ手付かずの状態で高原地帯に眠っている戦略資源の確保にある事は衆目の一致するところだったからである。それにも拘わらず、正当性無き侵攻に対し、本来ならば制裁を課すべき立場にあるはずの国連安保理は沈黙を続けていた。いや沈黙を余儀無くされていた。何故なら、隣国は国連のP5であり、どのような決定を下そうとも、拒否権の発動によって全て覆されてしまうためだった。
 こうして空挺部隊を含む5万人の部隊が山岳地帯へと送り込まれた。圧倒的な戦力の優位を前に、侵攻は簡単に終るはずだった。しかし、駐留は当初の思惑を超えて長期化する。あからさまな侵略に対し、地方の武装勢力が一斉に反発し、各所でテロ攻撃を頻発させたのである。
 数百年に亘って周辺から隔絶されて来た高原の宗教国家を舞台にした泥沼の内戦は、こうして幕を開けたのである。



英雄は九つの乳首を持つ狼によって育てられた
そして、九つの年が流れた時、英雄は初めて立ち上がり、口を開いた
「全ての生ける者どもに死を、完全なる無の上に我が国を作らん」
(「天池文書」第四巻A‐21より)


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